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映画を見た記録です。映画評ではなく、個人的な感想。
ネタバレは気にせずに書いていますので、未見の方はご注意ください。

『ハイヒールの男』

映画

klockworx.com

Netflix で。

 

チャ・スンウォンMtF を演じる。

チャ・スンウォンといえば、暑苦しいほど男臭さを振りまいている俳優だ。身長は188センチ。筋肉隆々である。

しかも監督はチャン・ジンである。トンマッコルは好きな映画だが、「拍手するときに去れ」(これもチャ・スンウォン主演)がけっこうよかった。

冒頭からサウナに入ってるシーンで、これでもか、というほど、鍛え上げた筋肉が披露される。当然ながらシックスパックである。

その後のアクションシーンは、最小限に抑制された美しい動きで、相手の肉体を破壊しまくる。そこにあるものはすべて武器に使い、超痛そうだが、あまりの突拍子のなさに笑える。テンポといい、美しい映像といい、ユーモアといい、アクションシーンのお手本にしたいような出来である。

助演陣では、出番は少ないものの、パク・ソンウンがえぐーい悪徳検事を小気味よく見せてくれる。出てきた瞬間から、まったく期待を裏切らない。

最後は、襲撃を受けて殴られ刺され、ぐったりしているところに、頭を車のドアに挟まれる形で、バシンバシンとなんどもドアを叩きつけられて殺される。そのときの効果音が、だんだん、グチョっというか、ネチョっというか、粘度を感じる響きになってくるのである。うぇー。

MtFの先輩というか、海兵隊の先輩でもある、という役柄のイ・ヨンニョが怪演。それにしちゃちょっと小柄だが、ふてぶてしさが肉体のきゃしゃさを補って余りあるという感じ。

しかし、彼女が語るトランスジェンダーの苦しみ、「わたしたちは地獄の入り口に立っている」云々というセリフがどうもいただけない。

当事者から出ている言葉だから、ホモフォビアっていう文脈ではないと見せたいんだろうけど、社会の偏見の視線を、そのまま内面化しているだけでしょ。

その後のシーンも、美貌のMtFと、不細工なMtFを二人並べて、なんだかんだと説教をかますのだが、自分が女だと感じているのに、きれいかどうかなんて別に関係ないよね。

女性を美醜でランクづけるのを、そのまま持ち込んでるだけ。

価値のあるのはきれいトランスジェンダーで、そうじゃないのは、できそこない、みたいな話になっちゃってる。

自分の感じ方ではなく、世間の見る目で「女」が作られる、というお話。

手術を受けて、性器の形状を変えることがゴールのようになってるし。

最初に書いたアクションシーンだけではなく、サスペンスの盛り上げ方、残酷な形で終わった初恋の描き方、どれもステキだっただけに、なんだかなぁ、という気持ちが強く残ってしまった。

(以下3/8追記)

従来の韓国映画だったら、うちがビンボでろくでなしの親兄弟がいる、みたいな不幸が描かれたところが、トランスジェンダーを持ってきたって感じかな。自分を偽る苦しみ、自分自身も自分を認められない悲しみっていうのは当然あると思うし、そこは胸が痛くなるくらい描かれていたんだけど、それだけですか、ってこと。

海兵隊出身先輩MtFのセリフをくさしたが、「男性性=暴力」だと喝破していたのはなかなかだと思う。全体にそういうトーンだったし。しかし、「手術で女になる」という以外に、社会的に女性として生きる見通しがまったく語られない、どんづまり感は見ててつらかった。

チャ・スンウォンの女装について言えば、最初のはかなりこっけいさ、異様さを強調していたけど、どちらかというと、年に似合わない若作りとか、体のラインを出す服装がその原因だと思う。ラスト近く、出国しようとする場面では、とてもよく似合ってきれいだった。映画のメイクさんと衣装さんが手をかければ、身長188センチだろうが、ごつかろうが、優雅な女性を作ることはいくらでもできるよね。このときは、落ち着いた雰囲気で、体の線を隠す服装。このあたりの変化も、女性として生きるスキルが増してきた、っていうことかな。まあ、着たければ好きなものを着ればいいんだけどね。

「女性を演じる」ということについては、いちばん目についたのが眼差し。これは、『リリーのすべて』を見たときにも感じたことだけど、男性らしい服装をしていても、女性に見えるときの目つきっていうのは、頼りなげで、なにかすがるような感じなんだよね。それを演技で表現できるチャ・スンウォンも、エディ・レッドメインもすばらしい。しかし、男性性が暴力なら、女性性は無力かよ、という、自分も含めた世間の性差に向ける眼差しにげんなりするのも確か。

もう一度いうけど、映画としてはとてもおもしろかった。わたしは、トランスジェンダーについて詳しいわけじゃないけど、男性性、女性性ということには興味がある。そういう視点であれこれ言ったけど、逆に、これだけいろいろ考えたのだから、その点もよかったのかもしれない。