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映画を見た記録です。映画評ではなく、個人的な感想。
ネタバレは気にせずに書いていますので、未見の方はご注意ください。

『弁護人』

映画

弁護人 公式サイト

宇都宮ヒカリ座で。きょうがラスト。

観客はわたし以外には、ご高齢の女性とカップルが一組。全部で4人でした。

ヒカリ座で韓国映画、平日の昼間となると、いつもこんなもの。

 

舞台は1981年。

その年わたしは大学に入学し、たまたま出会った韓国文化研究会の先輩に誘われて、法学部にあったボックスについていった。落書きだらけで、掃除もろくにしてない汚い狭い部屋。なぜか、メガネをかけた青年のモノクロ写真がパネルにして飾ってあった。

「この人だれなんですか?」と先輩に聞いたが、なんと返事が返ってきたかは覚えてない。ただ、ほんとうのことは言わず、適当にごまかされたのは確かだ。

あとで知ったのだが、その写真に写っていたのは徐勝氏だった。

政治犯として韓国で捕まっている人だ、なんて答えたら、田舎から出てきたばかりのなにも知らない女の子はどんびきして、そのまま逃げていってしまうだろうと思って、まともに答えなかったらしい。

そんなことを思い出しながら見ていた。

後に韓国に留学して、デモが去った後の路上で催涙ガスを吸い込んでしまい、皮膚にも作用して、体中ちくちくしてたいへんだった、という友人の話も思い出した。

催涙っていうと、涙や鼻水出るだけかと思うでしょ、そんな生易しいものじゃない、と。

日本の大学はレジャーランドと言われていたころで、タテカンだらけのキャンパスの中にも、脳天気な空気が満ちていた。そんな中で、光州事件後、全斗煥政権下だった韓国の現実を少しずつ知っていった学生時代。

韓国ではかなりヒットし、2014年の映画賞は総なめという映画だ。

人権派弁護士になる前、高卒で苦学して司法試験に合格し、金儲けに邁進したものの、他の弁護士からはバカにされていた時代の話がかなり長い。

おそらく韓国ではこのあたりのエピソードはみんな知ってるだろうから、パスするわけにもいかなかったのかもしれない。

その中で、キム・ヨンエ演じる食堂のアジメ(プサン地方の方言でおばさん)とのいきさつも描かれる。

テジクッパを出す食堂を営みながら、女手一つで息子を釜山大に入れ、そのだいじな息子が行方不明になり、2ヶ月プサン中を歩いて探し回る母親。

息子命の、韓国の典型的な母親像。

傍聴席で、きっと正面を見ている表情や、結審の日の淡いブルーの韓服姿が印象的。

息子の無罪を信じ、晴れ着を着たのだろう。

国ぐるみでなんの罪もない若者を陥れ、徹底的に拷問してありもしない自白をでっちあげる様子が、これでもかとスクリーンに映し出される。

庶民の哀感だとか、ふつうの日常だとかに逃げずに、むき出しの権力のガチンコ描写。少なくとも、そこから目をそらすほど衰弱してないんだなぁと思う。

カク・ドウォンが、学生を拷問して冤罪を作る警官を演じているのだが「この仕事こそ愛国」とか「自分たちが仕事をしてるから一般の人は枕を高くして寝られる」とか、「自分が決めるんじゃない、国が決めるんだ」などのセリフを聞くと、この人たちはどこまで本気でこういうことを信じていたのかなぁと思う。

この時代に大学生だった、つまり拷問される学生と同年代のわたしがまだ50代。拷問した側の人間もまだまだ存命だろう。ふつうの市民として、その後も生き続けているはずだ。

そのときにどうやって自分自身と折り合いをつけ、その後の人生をどう生きてきたのか。凡庸な悪の中の人の声を聞いてみたいものだと思う。

この時代をよく知っている韓国の中高年の人々、そしてモデルとなったノ・ムヒョンが辿ったその後の人生をよく知っている韓国の人々がどんな気持ちでこの映画を見たのか、想像しようとしたがあまりうまくいかない。

わたしはわたしで、いまの日本の現実と重ねて見るしかないのだ。

 

劇場での公開はほとんど終了しているが、もうすぐDVDが出るようだ。おすすめ。

 

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